娘さん,息子さんの性被害が心配。
将来父親になると思うけど,子どもへの性教育どうやったらいいのか知りたい。
そんな方に向けた記事です。
今回は,何を教えたらいいのか,ということの前に知っておくべきとても大切なことについてお伝えします。
ざっくり要約
性教育で学んでもらいたいことがらは,一人一人の考え方に強く関係しています。
ですから,子どもに教えようとする大人の考えが大きく影響します。
教える大人がどういう考え方をもって子どもに伝えるのかを知らないと,結果的に子どもの視野が狭くなり,親の考えに従うだけの子どもになるかもしれません。
性教育で目指すものはいわばその反対です。
子どもの人権を尊重し,子どもが自立して自分の性の健康を実現していくことを支援します。
そこで,性教育に興味を持って頂いている(将来の)お父さんに,まずは性教育の心得を5つご紹介します。
- 大人自身がもつ性に関する思い込みを知る
- 教えようとしない。一緒に学ぶ姿勢が大事
- 子どもの間違いをすぐに訂正しない
- 性教育の成果を短期間で求めない
- まずは子どもが「また性のことを話したい」と思ってくれることを目指す
性教育の心得その1-大人自身がもつ性に関する思い込みを知る
男性は,性に対して独特な考えをもっています。
たとえば,性に関することは笑いにでき,他人の性の特徴を馬鹿にして笑ってもいいとか,デートで男の部屋に遊びに来るということは”セックスしてもいい”ということを示しているといったことです。
メディアを通してこれらの態度を身につけてしまうと思いますが,こういった他者を尊重しなくても大丈夫,という考え方を知らず知らずのうちにしてしまっていることを自覚する必要があります。
客観的に自分をとらえる必要があるのです。
なぜならば,子どもに性に関する話をしながら,そこに自分の誤った価値観が入り込んでいないかどうかセルフチェックできないといけないからです。
そうしないと,父親の考えと異なる性教育の内容が取捨選択され,父親が伝えたいように伝えてしまいかねないのです。
子どもの権利を尊重し,子どもの幸せのための教育であるはずなのに,いつしか父親が子どもをコントロールするための教育になってしまうかもしれません。
そのことを避けるためにも,「大人自身がもつ性に関する思い込みを知る」ようにしましょう。
その思い込みはすぐに無くなることはないと思います。ただ,無くすことができなくても,出さないように努力はできると思います。性教育では父親の思い込みを出さないようにしましょう。
性教育の心得その2-教えようとしない。一緒に学ぶ姿勢が大事
性”教育”というと,父親が子どもに教えなくちゃいけない,と思いますよね。
しかし,ここでお伝えしたいのは,教えないで”一緒に学ぶ姿勢”を大切にするということです。
何を言いたいのかといいますと,「教える」ー「教わる」関係ができることで,上下関係が生まれてしまうので,上下関係を作らないようにしたいのです。
上下関係ができてしまうと,教わる側の子どもは,父親の顔色をうかがったり,反論して自分の考えを言えなかったりと,自律性が消えてしまうのです。
性教育のゴールのひとつには,自分が望む性の健康を実現するための選択ができるようになることがあると思います。
自律性が消えてしまうと,このゴールが達成できなくなってしまいます。
意識的に上下関係を作らないことで,父親の接し方を通して心地よい関係性について学ぶことができるようになると思います。
性教育の心得その3-子どもの間違いをすぐに訂正しない
子どもにとっては初めて学ぶことです。
お父さんから見て不適切な言い方や,ふざけた態度を取ることもあるかもしれません。
でも,それらに対して,
と注意したり,発言を訂正してしまうとどうなるでしょうか。
子どもは萎縮するか,「でも」と反発するでしょう。
せっかく学んでくれようとしているところで,注意されることで性教育に背を向けてしまうのです。
お父さんとしては,よかれと思って,もっとよく学んでもらいたいと思って注意したくなるのですが,そこはぐっとこらえて子どもが話を聞いてくれる状態になるのを待ちましょう。
性教育の内容ではなく,教えてくれるお父さんのやり方によって性教育から離れてしまうことは,避けるようにしてみましょう。
性教育の心得その4-性教育の成果を短期間で求めない
これは性教育に限ったことではないのですが,一回教えればそれでできるわけじゃないのです。
子どもは,知識は蓄えられるかもしれませんが,知識をたくさん得ることが性教育のゴールではないです。
心得その5のあとになぜ心構えを学ぶのかについて書いているのですが,性に関しては,「知っていればいい」のではなく,態度を身につけて自分と他者にとってよい行動をとることが重要です。
態度というのは,様々な場面での失敗経験や成功体験を積み重ねたり,社会の中で生活しながら,少しずつ身についていくものです。だからこそ,時間がかかってしまいます。
きっと,性教育を学んでいる途中であっても失敗することはあるでしょう。
たとえば,お子さんが友達を傷つけてしまうということもあるかもしれません。
そんなことがあっても,短期的な成功を求め,褒めるのではなく,失敗しても寄り添ってあげていてください。
失敗を重ねながら身につく態度もあると思います。
長い目で,温かく子どもを見てくれるのは親という存在です。
性教育をはじめる時には,これから失敗を見ることもあるかもしれないと心にゆとりをもってどっしりと構えていてください。それが子どもの積極的な行動を生み出しやすくするかもしれません。
性教育の心得その5-まずは子どもが「また性のことを話したい」と思ってくれることを目指す
ここまで,性教育は知識の積み重ねではなく,態度の習得であることをお伝えしてきました。
だからこそ,時間がかかってしまうのだと。
つまり,子どもには性に関して何度も話したり,やりとりをしていく必要があります。
このような,長い期間の教育を実現するためには,子どもが学習対象に興味をもってくれないと長続きしません。
避妊,性感染症,生殖,人間関係など,いろんなトピックについて教えていくことになると思いますが,効果的に教えないと…,わかりやすく教えないと…,と思いすぎず,「またお父さんと性の話がしたいな」と思ってもらうことが大切です。
というか,このような言葉を子どもから言われたら,こんなに嬉しいことはないですね。
そして,どうしたらこんなふうに子どもに思ってもらえるのか。
それは,
子どもの話をよーく聞き,興味を示すこと
です。
子どもは,自分の話に興味を持ってくれていること,自分の話には価値があるのだと感じること,そして笑ってくれること。
子どもにとっても,こんなふうに父親から反応をもらえたら,とっても嬉しいはずです。
教える,という行為にこだわりすぎず,対等な関係性の中で,一緒に考えていく。
そして子どもの話に十分耳を傾ける。
そのことに注力していくことで,きっと子どもはまたこの時間を味わいたいと感じてくれることでしょう。
ぜひお子さんとの長くて良好な関係性を築いてください。
なぜ知識の前に心構えなのか
せっかく性教育に興味をもったのに,いきなり心構えなんて正直ダルい。。。
そんなふうに感じるかもしれません。
ただそれには理由があります。
ちょっと極端な例えですが,こんな場面を想像してみてください。
あなたの息子さんが彼女と良いムードになり,「エッチしたいな」という息子さんの言葉に彼女も同意してエッチすることに。
いざ挿入というところで,コンドームをもっていないことに気づきます。
息子さんは,コンドームをしないでセックスをすることが,計画していない妊娠になる可能性も知っているし,もし妊娠した時に生じる様々な状況についてもイメージできていました。
ただ,この”知っている”ことと,適切な行動をとることができる,ということは少し違います。
「外に出すから大丈夫」と言えば彼女はコンドームなしでの挿入をOKしてくれるかもしれません(※腟外射精は避妊方法ではありません。妊娠する可能性のある誤った避妊方法です)。
いや,コンドームをもっていないから,今日は挿入をしないでふたりでくっついたり,愛撫したりしてたのしもう,という選択ができるでしょうか。
後者を選択するためには,知識があればいいのではなく,その根っこにある価値観,態度が重要であることを示しているのです。
重要な選択のときに,より適切な行動を選択することができるのか。
その選択を後押しするのが,態度なのです。
態度を養うためには,知識だけではなく,心構えを知る必要があるのです。
おわりに
心得その1からその5まで書いていくと気づくことがあります。
性教育を成功させるための心構えを書いていたのですが,いつしか父と子の関係性作りの心構えのように感じます。
でも実際そうなのです。
教育を成功させるのはある意味結果であり,そのプロセスには親子関係の構築があるのです。
これからお父さんになる人も,今いるお子さんの将来を考えている人にとっても,本日ご紹介した関わり方が生かされることを願っています。
ゆるっと性教育